StanfordとUCSFの結婚と破局

今日の"Competitive Strategy"という授業のケースは、90年代にあったスタンフォード大学付属病院とカリフォルニア大学サンフランシスコ校付属病院の合併と破綻劇。日本のイメージとしては、京大病院と阪大病院みたいなものと思っていただければいいと思います。

                      • -

カリフォルニアを代表する医療機関である両病院は、大企業や保険会社からのコスト削減圧力や他病院との競争激化による経営悪化に悩んでいた。大学病院として研究・教育活動もお粉分ければならない(そしてそれは利益を生むわけではない)。そこに、アメリカ全土に吹き荒れていた医療機関の大規模合併ブームなどが追い風となる。1995年、両大学の学長同士のトップ会談により、合併話は一気に進む。

ところが、笛を吹けど皆が踊るわけでもない。いままで最大のライバルであった大病院同士、カルチャーも違えば、診療プロセスも違う。ITシステムも会計システムも、給料査定も人事異動も何もかも違う。合併によって研究や教育がおろそかになるという論文が一流学会誌に投稿されるようになる。さらに、合併の推進役であった教授が他大学*1に移籍、リーダーが不在になる。

このような不安をよそに合併話は進み、97年ついに双方は合併、収入約20兆円の非営利組織が設立された。

ところが、予想通り合併直後から問題は深刻化する。会計、ITシステムの統合は進まず、統合による事務量増加により人員コストも増加、労働組合・教授会とも抵抗を続け、巨艦は思うように前に進まない。そして99年、両大学はついに合併の解消を発表する。わずか2年で破局を迎えるという異例の事態であった。

                      • -

ここアメリカでは、医療機関といえども、一般企業と同じで、買収もされれば倒産もします(まず、この概念がつかむのに一苦労)。さらに、このような大学病院の場合は、教育や研究費も稼ぎ出さなければいけません。

授業では、「この場はスタンフォード大学の経営会議」という想定で話がすすみました。当時を取り巻く経営環境を丹念に分析、考えられうるオプションとその戦略と欠点を皆で議論をしながら進み、最後に、この統合劇が失敗した原因の分析が行われました。

このような失敗ケースだと、時として「批評の言い合い」に終始してしまうのですが、教授が見事に議論をまわしたことに加え、当時、医者としてスタンフォードに在籍していた方が現場の雰囲気を伝えてくれたため、何時になく議論は盛り上がりを見せました。日本ではあまりないケースメソッドの本領を垣間見た感じでした。

ところで、友人の一人はこの合併劇のことを「これは芸能人の結婚(Marrige of the movie stars)だ。2人は出会い、恋に落ち、結婚。そして華やかな結婚生活は2年で破局を迎えた・・・」と言っています。なるほど、言いえて妙とはこのこと。

*1:なんとHarvard Medical Schoolのトップに就任!