共謀罪の問題点

 ちょっと公民の授業をしてみましょう。

法案は通過するもの

 法律は国会で決まります。その案・法律案は、日本では国会議員と内閣(要するに各省庁)のどちらもが提出することができます(このあたり、議員しか提出できないアメリカとシステムが違う)。国会議員が提出した法案を「議員立法」、内閣が出した法律を「閣法」といいます。

 閣法は、通例として国会提出前に与党(自民党公明党)の了解を得ることになっているので、国会ではほぼ100%通過します(与党が反対する法案は、そもそも提出されない。郵政法案は異例中の異例)。一方、議員立法は、多くが野党側が提出するのですが(与党は役所を使って提出してしまうことが多い)、与党の賛成が得らることも少なく、ほとんど通過しません。

 さて、ここで重要なのは、法案を提出した時点では、提出者(内閣or国会議員)は、当然、とーぜん、その法案は通過するものとして、案文が用意されます。まぁ、当たり前といえば当たり前ですが。

引用また引用

 日本の法律は網の目のように何千もの法律がお互いをお互いを引用しまくっているので、ひとつの法律のあるところを変更すると、ドミノ形式でパタパタと何本もの法律を変更する必要がでてきます。

 たとえば、法律Aで「ボストン在住の人間は、法律Bの第10条に決められている球団を応援しなければならない」と書いてあるとしましょう。当然、法律B第10条には、レッドソックスと書いてあることでしょう。ところが、法律Bの改正で、第10条を第11条に、第9条が第10条とする変更が行われることになったとします。万が一、(昔の)第9条に「にっくきヤンキース」とか書いてあったら、ボストニアンの悲劇です。

 こんなことがないように、法律改正を行うときは、世の中にあるすべての法律をチェックして、必要な改正を行うことになっています。果てしない作業が行われるわけです。(ちなみに、ちょっと昔の年金法案は、電話帳ほどの改正案の中でこのようなミスを30箇所かそれくらいしたらしい。)

 通常は100本近くの法案が同一国会に提出されます。したがって、ある法律Aを法案Bと法案Cの両法案が同時に変える必要が生じる場合も生じます。そのような場合は事前に調整して、

  • 法案Bが法律Aを改正
  • 法案Cは「法案Bによって改正された後の法律A」を改正

という技を取ることになります。

応用問題

 さて、仮に、「これは絶対に国会を成立しません」という法案Bがあったとしましょう。上に書いた方法では、うまくいかないのはお分かりでしょうか?「法案Bによって改正された後の法律A」というのは、あくまで法案Bが成立することを前提に書かれているので、法案Bがぽしゃってしまうと、この文章は空振りになってしまいます。

「なら、法案Bが通過しない場合を想定した文章を用意しておけばいいでしょ」

 ごもっともです、そのとおりです。でも、「法案は通過するもの」として準備することが不文律なので、そのような文章は置けないのです。理不尽かもしれませんが、論理的にはそういうことなのです。

「法案Bをださなきゃいいじゃないか」

 これまたごもっともです、そのとおりです。でも、そういう法案に限って別の事情があったりします。たとえば、「国際的な信用を無くすので」とか。

 こまりましたね。どうしましょう。

現実問題

刑法・組織犯罪処罰法改正案を閣議決定・「共謀罪」創設

 政府は3日の閣議で、殺人や詐欺などを組織的にたくらむと、犯行に着手していなくても処罰できる「共謀罪」の創設と、サイバー犯罪への対策強化を柱とした刑法・組織犯罪処罰法等改正案を決定した。同法案の国会提出は3回目で、内容は2004年の通常国会に提出した時とほぼ同じだ。早期の可決、成立を目指す。

 「共謀罪」の創設は日本が2000年に署名した「国際組織犯罪防止条約」が求めている。懲役・禁固4年以上の刑に当たる600超の犯罪を組織的に謀議すると処罰できる内容だ。

 政府は2003年の通常国会で初めて共謀罪の創設法案を提出したが、同年秋の衆院解散で廃案。昨年の通常国会ではサイバー犯罪の処罰規定を追加して再提出したが、野党の反対で継続審議に。今年6月に衆院法務委員会でようやく審議入りしたが、与党は修正の必要性を指摘し、野党は廃案を主張するなど審議は難航した。

http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20051004AT1G0400904102005.html

 この記事をみて、共謀罪の別の問題点*1を思ったりしました。

*1:ちなみに、共謀罪の是非については世の中で山ほど議論されているので、ここでは割愛。